While Leaves are Falling

その日は突然やって来た。その日以降、作家が知るそれまでの母は、記憶の中に永遠に閉じ込められることになる。

写真家金山貴宏は、離婚した母、祖母、 2人のおばの4人の女性に育てられた。金山が20歳になってまもなく、その母は統合失調症(精神分裂病)と診断される。1999年春、4人の女性の長である祖母が亡くなった。祖母の死後、それまで撮影することがなかった家族の写真を、金山貴宏は撮り始める。それらの写真のほとんどは、アメリカから日本に里帰りするたびに母と2人のおば、犬のケリーと共に旅行した際に撮られたものだ。旅行先はほぼ毎年同じで、祖母を含む家族全員で唯一来たことがある箱根や日光、福島、京都など、母とおばが若い頃から行きたかった場所が多い。

「母」と「記憶」の存在をめぐる旅──、
「老い」と「時間」をめぐる旅──、
そしてかけがえのない家族旅行──。

「これらの写真は、過去と現在の時間の往還を実現させてくれる大切な乗り物であると同時に、過去と変わりゆく現実に向き合うための試みでもある。」(金山貴宏)
そう作家が語るように、写真という乗り物もまた過去や現在の時間を往還しながら旅をする。

家族旅行の途で撮影された金山の写真が、美しく、複雑に、記憶と時間と関係性の旅を続ける先に、母は狂おしく存在する。

年老いていく親や家族を見てると、このまま年を取るのが怖いと思うときがある。
生きていると自分がコントロールできないことにいくつも遭遇する。 時間は無関心を装い、スピードを緩めることなく過ぎ去っていく。
それでも僕らは生きていく。
このシリーズは、作家の家族である3人の女性を16年に渡って記録した、彼女達が生きてきた証だ。

 

写真家について
金山貴宏 
1971年東京都生まれ。93年に映画制作を学ぶためにアメリカへ留学。97年ニューヨーク市立大学学士課程 (写真科)を修了する。2001年School of Visual Arts大学院(ニューヨーク)写真科修士課程修了後、03年国際写真センター(ICP)のドキュメンタリー写真科に籍を置く。写真展に、07年Japan Society「Making a Home: Japanese Contemporary Artists in New York」(ニューヨーク)、09年「SHUMAFURA」(Miyako Yoshinagaギャラリー/ ニューヨーク)、2012年『Shades of The Departed』(同ギャラリー)がある。受賞歴に、2013年東京インターナショナル・フォトグラフィ・コンペティション審査員賞。16年NYFA (New York Foundation For The Arts)の写真部門のフェローシップを獲得、同年Light Work Artist-In-Residence(ニューヨーク州シラキュース)に参加。
母親のベッドで

 

 

母親の座る

 

 

祖母が家にいた最後の日を示す母と祖母の日めくりカレンダー

 

 

日光

 

 

滋賀病院
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