北朝鮮:耐えられざる暗闇
「北朝鮮:耐えられざる暗闇」は、貧困と抑圧を徹底するために、非現実的な改革案を公布する国家精神を描写しようとした一連の作品です。これらの写真は、2008年と2009年の2度に渡り、北朝鮮に旅行した時に撮ったものです。この旅行は、国によりお膳立てされた訪問だったため、国の厳重な管理下での行動でしたが、私は北朝鮮の国民生活の実態を知ろうと試みました。
滞在期間は24日間でしたが、一般の人々が自らの尊厳と人間性を保ち続けていると確信するのには十分でした。公には裕福で安定した国を装っていますが、一般市民は、制約と恐怖に満ち、停電や必需品不足に悩まされる生活にも、何とか喜びを見出そうともがいています。一般の人々が実際にはこの国の制度をどう思っているかは分かりません。私が会った人々には、彼らの指導者が外の世界に見せているような敵意は全く見られませんでした。その一方で、彼らは、控えめながら強い好奇心を示してくれました。私が見た限りでは、彼らは普通の人々で、多大な困難を乗り越えて何とか生きていこうとしています。
このシリーズは、国の創始者として崇められている金日成の息子、金正日からその息子である金正恩へと支配権が移り変わる時期に撮影したものです。多くの問題が現在もそのまま残り、諸外国との緊張関係も高いままです。国連世界食糧計画によれば、2百万以上の人々が食糧の供給を受けています。その一方で北朝鮮政府は核開発に投資しています。近年、金正恩は自由化による改革を導入しましたが、一般国民の福祉の向上は遅々として進んでいません。北朝鮮はいまだに極めて孤立しており、インターネット接続は禁じられ、海外旅行ができるのも上流階級だけです。一政党が国民生活の大部分を牛耳っており、徹底した先軍政策を取っています。指導部への不満の表明や国外逃亡は犯罪です。政府当局は、「労働者収容所による矯正」を公に認めています。
一般市民の厳しい現実と国の勝利主義とが併存しています。上流階級は、立派な集合住宅に住み、輸入車を運転し、有名デザイナーの服を買っています。このような暮らしは、万人の平等の推進に専心すべき人々が治めるこの国では、一般の労働者には手の届かないものです。
もちろんこれらの写真からは北朝鮮の国民の胸の内はわかりませんが、彼らがロボットでも、狂信的な共産党員でもないことが、これらの写真から見て取れます。こうした、国家の夢と国民の悪夢が共存する状態は、はたしてどのくらい続くのでしょうか。
写真家について
ロシア人の写真家イリーナ・カラシニコフは、ヨーロッパを拠点に活動しています。ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーションでフォトジャーナリズムとドキュメンタリーを学び、2007年に修士号を取得。ゲッティ・ルポタージュから作品を発表し、現在はロシアで最も評判が高く権威ある日刊紙コメルサントの写真家として欧州部門の主任を務めています。カラシニコフの作品はガーディアン、タイムズ、ニューズウィーク、デイズジャパン等に各誌に掲載されています。