American Roots: The Delta

今この瞬間においても、あの広大なブラウンフィールドの端に立つと、どこまでも、そうまるで自分自身の幼少期にまで歩き続けて行けそうな気分になる。実際にここを訪れる何人かが、過去に戻ってきたみたいだと言うのを耳にしたことがある。だが、私はそうは思わない。彼らは、彼らが知ることのない、また永遠に理解できない場所へとただ迷い込んだだけなのだ。ある場所は作り物に見え、想像がそのまま形になったように見える。サウスビーチのアールデコ調の風景は、漫画家の夢が作り出した場所のようだ。アトランタのスカイラインは銀行家によって型通り印刷されたかのよう。ラスべガスは電気工によって炎をつけられ、リッチモンドは馬に乗った兵士の亡霊に支配されている。
だが、この場所はそうではない。
ここにもまだ死に絶えていない夢があるだろう。
だが、このデルタは想像の場所ではなく、人の手によって確かに作られた場所だ。
ここは広大で暗い原始の森を開拓し、人間の絆の時代に、血と痛みと労働によって作り出された場所だ。
人が木々を倒し、切り株を燃やし、この広大な場所を永遠と広がる綿の畑へと作り変えた。強靭な男であっても1日では収穫しきれない広さへと。この場所は決して、仮にそう見えたとしても、田舎ではない。何もない野原は、それそのものが行き先である。雑草はどこで1つの収穫物が終わり、新たな収穫物が始まるかを教えてくれる。人間の手によって作られた他の多くの街が、人とコンクリートで溢れているのに対して、この場所では土が何よりも重要だ。そしてここにはそれが膨大にある。
ここでは街と街の間や、道路に、暗闇がまるで箱の蓋のように覆いかぶさる。その孤立こそがここでの生活をかたどり、受け入れられ、深く、時に、ひどく刻み込まれる。この孤独感が公民権運動における最も冷徹な瞬間の舞台となった。川は死者を諦め、名もなき道が静かに秘密を隠している。この場所は地球上で最も南部な場所と呼ばる。ここでは、貧困は 固まる前のアスファルトの塊のようにあなたの目の前に飛んでくる。それは、アメリカ合衆国において最も貧しい場所の1つであり、富む者たちを、第三世界の家々、傾きかけの移動住宅が囲む。そして、先進国で最も悲しいほどの乳児死亡率。
今日、ここには企業が所有する広大な農園とナマズ池が失われた路の横に並び、その間に、ベルゾーニ、アリゲーター、インディアノラ、クラークスデール、レランドと名付けられた町がまばらに存在している。人によっては耐えることができない悲しみが存在するが、だが同時に人も住み、最高のタマーレスが食べられる場所だ。清潔な白いシーツが物干しにピストルショットのようにはためき、プロパンのタンクが宇宙船のように地平線に輝く。ブーツの靴底に土がついた男たちがここでは崇められる。なぜなら土はお金を意味するからだ。そのお金はナマズ池と農園から絞り出される。ここでは、神話と魔術、そして伝説が現実の中で渦巻いている。100万の鳥が叫び声をあげながら人通りのない道の空を黒く染め、黒い羽と鋭いくちばし輝く目が、動く壁を作り出す。そしてここでは、この世界の地獄である刑務所で入れた刺青で、全身が覆われた年老いた男が、上半身裸のまま、その骨のような腕で優しく赤ん坊を抱いている。その姿はまるで、1つの人生の終盤においても、素晴らしいこと、希望を持つべき理由があるのだと、彼自身を、そしてそれを聞く誰かを納得させるかのようでもある。
私がデルタを初めて訪れたのは2009年だった。そしてある意味で、私はまだそこを離れられていない。いや、正確には、デルタが私を離してくれない、というべきだろう。それは北西ミシシッピの肥沃な平地に住む人、この場所によってかけられた魔法のようなものだ。ここでは、土地との繋がり、季節のゆったりとしたリズムによって人々の暮らしが形どられる。おそらく、アメリカのどこでも、これほどまでに生き方において極端であり、感情的な歴史がとても密接に存在する場所はないだろう。

 

写真家について
マグダレーナ・ソールは受賞歴を持つソーシャルドキュメンタリー写真家。豊かなサチュレーションから、古ぼけた色合いまで、その独特の色使いによる繊細な表現によって知られ、幅広い感情表現を得意とする。視覚言語をライフワークとし、1989年に、ニューヨークとサンフランシスコにオフィスを持つグラフィックデザインスタジオTransImageを設立。2002年にコロンビア大学にて映像の美術修士号を取得。映像作品「Man On Wire」ではユニットプロダクションマネージャーを務め、2009年にアカデミー賞を受賞している。
作品は世界各地で巡回している。日本での作品には、老人の日雇いワーカーを追ったフォトドキュメンタリー作品「Kamagasaki」や、2011年の東北大震災のその後を追った「Since that Day」がある。現在は、変化の中にあるキュバをテーマとした写真集「Hasta Siempre」を製作中。2012年にミシシッピ大学出版より「New Delta Rising」を上梓。PX3にて銀賞を受賞。“色鮮やかであり、印象的、心ざわめかせ、衝撃的” (ウォール・ストリート・ジャーナル/2012年2月)という評を得た。
2012年から2016年の展示に「Cuba. Hasta Siempre」(the Vermon Center for Photography /米国バーモント州ブラトルボロ)、「Since That Day」(伊藤忠青山アートスクエア /東京)、「Cuba Then and Now」(Sous Les Étoiles Gallery / 米国ニューヨーク)、「After The Water Receded」( Soho Photo Gallery / 米国ニューヨーク)、「Mississippi Delta」(Griffin Museum of Photography /米国マサチューセッツ州ウィンチェスター:Barcelona International Photography Awards Exhibition, BIPA / スペイン)、「Behind the Lens: Women Photographers on the South and Appalachia」(Tipton Street Gallery /米国テネシー州ジョンソンシティ)「Next — New Photography Visions curated by Elizabeth Avedon」(Castell Photography Gallery /米国ノースカロライナ州アッシュヴィル)、「A retrospective」(Leica Gallery in SOHO /米国ニューヨーク)、「The Delta」(Cassidy Bayou Art Gallery / 米国ミシシッピ州サムナー)、「The Mississippi Delta」(Leica Gallery / 米国ニューヨーク)、「Voices from Japan」(コロラド大学IDEA Gallery /米国州コロラドスプリングス)、「The Mississippi Delta」(South East Museum of Photography / 米国フロリダ州デイトナビーチ)、「The Delta」(Sous Les Étoiles Gallery / 米国ニューヨーク)、「The Delta」(WilJax Gallery /米国ミシシッピ州クリーヴランド)、「Dante and the Delta」(Doma Gallery /米国ノースカロライナ州シャーロット)、「Voices from Japan」(Cathedral Church of Saint John the Divine /米国ニューヨーク)、「After the Water Receded」(Sidney Mishkin Gallery /米国ニューヨーク)。
ウェブサイト: www.solepictures.com
Clarksdaleにある2人の兄弟のWangz N ‘Thangzレストラン

 

 

Ka’leishaはバプテストタウン、グリーンウッドで母親と傷ついています

 

 

R.A. キャッチとレナード・ヘンダーソン、ウェズ・J、クラークスデール

 

 

マディソン・レイモンド、クラウダー

 

 

Benoitの近くのハイウェイ1の黒鳥

 

 

ストーニー、セレナ、ダルトンプルート、クラウダー
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