On the Shore of a Vanishing Land
ゴラマラ島は西ベンガルのデルタ地方に位置しています。気候変動の影響により海水面が著しく上昇したため、島の沿岸部では1960年代から浸食が続いており、1980年代以降、海水の浸食作用により島の50%以上が失われました。その結果、住民の3分の2が島を離れました。残っている住民の多くが農民と漁師で、彼らは島の天然資源に頼って生活しています。
ある役人の話では、インド政府は20~25年後にこの島の管理を放棄する可能性があり、既にサガールという別の島に島民を退避させる計画を立てているというのです。しかしこの計画には、生活の拠点を移すことを余儀なくされる島民への経済支援や補償策は盛り込まれていません。
私には海面上昇のために失われた遺産の痕跡を見ることができます。浸食によってむき出しになった植物の根は、島に住む人々の生活の基盤が失われていることを物語っています。海は住民の過去を飲み込み、住民の未来は誰にも分りません。沿岸部は後退し続け、植生が失われ、堆積物に覆われた海岸だけが残されています。不毛の沿岸が増え続ける中、この光景は皮肉な美しさを湛えています。人間が自らの手で作り出した悲劇的な美しさ、と言ってもいいでしょう。この消えゆく島の美しさを背景に、島民に海岸に立ってもらい、その写真を撮りました。非現実的な光景を表現したかったのですが、そこに住む人々にとっては、これは紛れもない現実です。これらの住民が生まれた土地を去らねばならない日がいつか来るでしょう。やがて、彼らが生まれた島は、彼らの記憶の中にのみ非現実的なものとして存在することになるのです。
写真家について
テソン・リーは、フランスのパリを拠点に活動する韓国人写真家。2003年韓国のチュンアン大学で学位を取得後、最初は商業写真家として働いていましたが、2007年に記録写真に転身しました。変化への人々の注意を促すため、「国際化」とそれが現代世界に与える影響をテーマとするプロジェクトを進めています。
2010年以降、彼自身の世界の捉え方が変わったため、作品のコンセプトも変化し、単なるルポタージュにとどまらない写真になっています。
彼の作品は、ソニー世界写真賞(2013年と2015年)、2014年度環境写真家レンズカルチャービジュアルストーリーテリング賞&人物写真賞を受賞。またCNN、ル・モンド、ニューヨーカー、ワシントンポスト、ハヒントンポスト、クーリエインターナショナル等の国際的メディアでも取り上げられています。さらには、イタリア・ミラノのフォトフェスティバル、米国ボストンのフラッシュフォワードフェスティバル、クロアチアのオーガン・ビーダ・フォトフェスティバル、フランスのプリュイ・ディマージュ、ギリシャのアテネフォトフェスティバルにて作品が展示されています。
ウェブサイト: www.indiphoto.net