Foreigner
“Foreigner”は、ヨーロッパにおいて、移民/難民問題に際し使われる視覚文化や政治的レトリックに異議を申し立てる、現在進行中の多分野プロジェクトです。
このプロジェクトは2015年5月、同年4月に地中海で転覆し、およそ1,000人の命が奪われた2つの移住船に関する英国メディアの報道に応答する形で、スタートしました。これらの船の搭乗者やヨーロッパへ移住しようと試みる人々に対して使われた形容詞は「ゴキブリ」。ここで使われた言語の調子や口語、その他のメディア・政治的な情報操作の例は、ヨーロッパの地政学的景観を先入観で変更させるものでした。保守的かつ民族主義的な政治的偏重は、一般市民に対しバランスのとれた考察を提供することを著しく難しくし、その結果、本来起こるべきではなかったヒステリーを起こしました。ヨーロッパへの移住が直面する問題は白黒で語れる問題ではないにもかかわらず、物語を択一的な構造に押し込めることで、貴重な情報は無視されています。
「ヨーロッパ 移民」や「ヨーロッパ 難民」という言葉をウェブ検索すると、何百という人が入り乱れる混沌とした風景が見つかります。暴力的、衝撃的、または哀れみという印象を伴うそれらの画像は、その一瞬をとらえられ、定義されたものでしかありません。そこには、名前も、個人の物語も存在しません。ここで問題となる個人の尊厳やイメージは、守られなくてはならないものであり、明確に伝えられるべきものです。同時に、オーディエンスの知性と注意持続時間は容易に過小評価されたり、操作されてはならないものです。
この人道危機においてしばしば無視されてきたものに、写真が持つ権限を与える力、そして協同性があります。私にとってのモチベーションとは、作品を一緒につくる人たちが、隠された意図に晒されることなく、個人の体験を伝える機会を持てるということにあります。被写体とのコラボレーションを通じて生まれたこの一連の作品には、映像と証言書が含まれています。それらは楽しませるためではなく、知らせることを目的としたものです。そこには誰かを聖別する意図も、避難する意図もありません。
写真家について
ダニエル・カストロ・ガルシア
写真家、フィルムメイカー。ストリートフォトグラファーとしてキャリアを始め、ソーシャルドキュメンタリーとポートレイトを中心としたパーソナルプロジェクトを手がけている。
2015年5月、自身も運営に携わるJohn Radcliffe Studioのトーマス・サクスビーとジェイド・モリスと共に、人道危機に関する報道で伝えられる移民・難民のイメージとは、異なる視点を提供することを目的とした写真プロジェクト「Foreigner」を開始。プロジェクトのスタート以降、ダニエル・カストロ・ガルシアは、数多くの難民・移民キャンプを訪れている。
2016年5月にイギリスの出版社MACKが主催する「First Book Award」のファイナリスト作品として選ばれたのち、 “Foreigner: Migration into Europe 2015- 2016”をデザインスタジオ「John Radcliffe Studio」より出版。同書は、2016年のParis Photo Aperture Foundation First Book Awardにもショートリストされている。
2017年1月、イギリスの写真雑誌「BRITISH JOURNAL OF PHOTOGRAPHY」が主催する「INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY AWARD(IPA)2017」を受賞。同年3月、受賞をきっかけにTJ Boulting Galleryにて初の個展を開催。展示に合わせて“Foreigner: Collected Writings 2017”(John Radcliffe Studio)より出版されている。その後、同プロジェクトは「Cortona On The Move」、「Organ Vida at the Museum of Contemporary Art」、「Wagner Gallery at New York University」で展示されている。
2017年3月、ダニエルはMagnum Foundation Fundのグラントを獲得。イタリアのシシリアにてアフリカ系コミュニティのintegrationにフォーカスした続編“Foreigner: I Peri N’tera”の制作を開始。同年10月に、W. Eugene Smith Memorial Fund Grantを受賞。
ウェブサイト: www.danielcastrogarcia.com